Le Journal Blanc ~白のジャーナル~

あなたの明日をもっと輝かせる、素敵な気づきのお話。ふわっと、時に凛と。

#5 たった1枚の付箋で人生が好転する

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*誰もが苦手な厳しい上司? 何度も企画書を却下されて……

1枚の付箋に書かれた言葉にはっとし、気づきを得たお話です。

学生時代、アルバイトをしていたオフィスでのこと。

広告関連の制作会社だったその会社には、常に多くの案件が持ち込まれ、会社全体がとても活気づいていました。

社員、アルバイトの区別なく、全員がフル稼働という状態です。

案件ごとにスタッフが召集され、チームが編成されるのですが、その中に厳しいと評判の女性の部長がいらしたのです。

 

「Tさんのチームに入るとキツいよな」

「完璧主義だからね。他の仕事との調整がさ。ま、勉強にはなるけど」

そんな声を聞くT部長のチームに、私もついに加えられる日が来ました。

 

初めての打ち合わせのあと、T部長から声がかかります。

「あなた、案出し100案ね。明日の朝まで。女性向け製品なんだから出来るでしょう?」

鋭い眼光、有無を言わせぬ迫力。

イメージはまさに映画「プラダを着た悪魔」でメリル・ストリープが演じていたファッション誌「RUNWAY」の編集長です。

 

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「うわ、確かに怖い……」

縮み上がった私は、それこそ寝ずに案出しに励みました。

翌朝、なんとか100案を書き綴った分厚い企画シートの束を提出すると、T部長はパラッと上の方の数枚を見ただけで、

「だめ。もう1回!」と私に突き返してこられたのです。

 

聞きしに勝る厳しさ。

それからというもの、T部長の「だめ!」のひと声で、何度企画を提出し直したことでしょう。

広告の仕事をして生きていきたいと考えていた私は、なんとかT部長に認めてもらいたくて、必死にがんばったつもりでした。

 けれど、毎回にべもなく企画書を突き返されているうち、心が折れそうになったのです。

「私には才能がないんだから、何度やってもだめなんじゃないだろうか」

「T部長はアルバイトである私の企画なんて、初めから採用してくれるつもりはないのでは?」

なけなしの自信もすっかり失い、疑心暗鬼にさえ陥りました。

 

「もう無理です。チームから外していただけませんか?」

これでだめならそう申し出ようと覚悟を決め、何度書き直したかわからない企画書を抱えてT部長のデスクに向かいました。

部長が不在でいらしたため、デスクに企画書を置いてその日は会社を後にしたのでした。

きっとまただめなんだろうな、私には広告の仕事は無理なのかもしれない、そう落ち込んだまま───。

 

*「お疲れ様です」。1枚の付箋は、心を伝えるメッセンジャー

次の出社日、憂鬱な気持ちのまま自席に向かうと、デスクに私が提出した企画書が置かれています。

企画書に貼られた真四角の黄色い付箋に、何か書かれているようです。

「お疲れ様です。指示の箇所を修正してください。○月○日○○時、クライアントに同行出来ますか? T」

T部長の流れるように美しい達筆を、私は何度も読み返したのでした。

 

生来涙腺のゆるい私は、涙がこぼれないように、唇をかみしめて企画書のページを繰りました。

採用となった企画案のページに、T部長から細かい修正指示が加えられています。

「おおむねOK。ただ下線部についてはこう表現した方が伝わりやすいのでは?」

「ここは資料を添付するとよいかも?」

女性ならではとも思えるきめ細やかな指示は、完璧主義者だからではない、仕事に対して本気だから、スタッフを育ててくださるお気持ちがあるからこその加筆であるように、私には思えたのです。

 

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「お疲れ様です」から始まるT部長の付箋がうれしくて、デスクのよく見える位置に貼っておきました。

黄色い付箋が見守ってくれている。

そんな気がして、その日残業して企画書の修正を続けていると、背後からふと声がします。

「まだがんばってるの?」

T部長の隣の部の、Y部長でした。

「はい、T部長の○○の案件で」と私が答えると、付箋に目を留められたY部長はこうおっしゃいました。

「T君のメモは、必ず『お疲れ様です』から始まるんだよね。上司や部下の区別なく。この『お疲れ様です』のひと言に、いつも癒されてね」

 

あまり無理をしないようにと笑って、Y部長は去って行かれたのでしたが、私の目には、黄色い付箋が一層かけがえないものに映るようになりました。

共に働くスタッフに宛てて、上下の隔てなくT部長が贈られる言葉

「お疲れ様です」

そのわずか6文字が、スタッフへの思いやりや敬意、Y部長の真摯な生き方、多くのことを物語っている気がして。

 

今、当時を振り返ってみて、改めて思います。

愛想のよさや、心に刺さるひと言で人の気を掴むようなところがまったくなかったY部長は、不器用な方だったのかもしれません。

けれどいつも本気で仕事に自分を捧げ、誰に対しても等しく誠実であったY部長の真意を伝えるメッセンジャー

それが、たった1枚の付箋だったのではないでしょうか。

 

1枚の付箋に託されたものを理解していたからこそ、厳しすぎるとこぼしながらも、スタッフの誰もが懸命に、Yさんについて行こうとがんばっていた。

そのように思えてならないのです。

 

*思いは言葉にして伝えよう。手書きの文字ならより深く響く

 家族や友人、職場の同僚を「いつもお疲れ様」とねぎらう気持ちや、「ありがとう」とと伝えたい感謝。

胸に抱いている思いは、きちんと言葉にして伝えたいものですね。メールやLINEも便利ではありますが、時には手書きの文字で。

 

便箋や封筒をと身構えると先延ばしにしてしまいがちなものですから、ここはどうぞ手軽な付箋で。

そこに綴られたあなたの思いは、たったひとことでも贈られた方の深いところに響いて、お互いの心をあたため、やさしい絆で結んでくれるのではないでしょうか───。

 

 

 

 

 *Web magazine`Project DRESS’で、コラム「人生が好転する気づきの美習慣」を連載させていただいています。